【6/19(金)予定・制限撤廃】伊勢角屋麦酒 カドラボ038(ISEKADOYA BEER KADOLABO 038)

4,540円(税込4,994円)

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20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。

静岡大学が保有する3株の野生酵母を使用した芳醇な味わいのベルジャンストロングゴールデンエール

アルコール:8.5%
IBU(苦さの基準):
種類:ベルジャンストロングゴールデンエール
容量:750ml
生産地:日本 三重県伊勢市

【ブルワリーより】

KADOLABO 038 Accidental Terroirは、静岡大学が保有する3株の野生酵母を混合発酵させ、100%オーク樽発酵で仕上げたBelgian Strong Golden Aleだ。
033 Isolation and Integrationで試みた野生酵母の重ね合わせというコンセプトを、別の土地の酵母で問い直した作品である。
033では、我々が自然環境から単離した4株 KADOYA1, BOKE, BE-2, APP-3を培養段階で混合し、ステンレスタンクとオーク樽で発酵させた2種のビールをブレンドした。本作の骨格はそれにかなり近い。異なるのは、ブレンドする酵母が我々の手持ちの株ではなく、静岡大学が保有する野生酵母3株であるという点だ。同じ「野生酵母の混合発酵」という器に、由来の異なる酵母を注ぐことで、株の違いがビールの表情にどう現れるのかを確かめたかった。
「Accidental Terroir」という名は、なぜ静岡大学の酵母にたどり着いたのか、その経緯に由来する。始まりは、弊社代表取締役社長 鈴木成宗が、静岡大学の発酵とサステナブルな地域社会研究所——通称「発酵研」と縁を持ったことだった。発酵食品・飲料を、人文科学・社会科学・自然科学の知を横断して扱う、学部学科の枠を越えた研究機関である。発酵を文化として捉える視点と、酵母を自然科学として捉える視点が同居している。その縁から、鈴木は、私の気が付かぬ間に、いつの間にか静岡大学の客員教授に就任していた。まさに偶発的な成り行きである。そして発酵研の先生方に野生酵母を分譲していただいたことが、このビールの始まりとなった。

テロワールとは、本来ワインの世界で、ぶどうが育つ土地固有の環境を指す言葉だ。近年のワイン醸造科学では、このテロワールに微生物相も含めて捉える「微生物テロワール」という概念が定着しつつある。同じ品種のぶどうでも、産地ごとに付着する野生酵母・細菌の構成が異なり、それが発酵の進み方や香りの個性に再現性をもって現れる。野生酵母は、その土地の微生物相——どんな微生物がどんな割合で棲んでいるかという顔ぶれ——を映す存在であり、ビールにおけるテロワールの担い手になりうる。発酵研は、地域から採取した酵母を地域のコモンズとして捉え、地産の発酵飲料へ還元する取り組みを進めている。我々が10年来、地域独自性を持つ商品開発の手段として野生酵母に取り組んできた考え方と、深いところで重なっている。偶然の縁で結ばれた、もうひとつの土地のテロワール。それが「Accidental Terroir」だ。
本作は、KADOLABOシリーズの中で初めて、自社の150Lブリューハウスで麦汁から自分たちの手で仕込んだビールでもある。これまでのKADOLABOは麦汁をISEKADOブランドと共有しており、ベースビールを自由に設計することができなかった。150Lの小さな仕込み設備を得たことで、KADOLABOはようやく、ベースビールから一貫して設計できるようになった。そして我々はそのベースを、ピルスナーモルトのみのきわめてシンプルな構成とし、ドライホップもごく控えめにとどめた。これは033 Isolation and Integrationの経験を踏まえた選択である。033で野生酵母と樽を扱ってみて、野生酵母と樽の表現を主役にするなら、ベースビールはむしろシンプルであるべきだと学んだ。今回はそれを意図的に実践している。

素材を足すのではなく、削ぎ落とすことで酵母と樽の表現に場所を譲る——ナチュラルワインに近い「引き算」の設計である。ナチュラルワインは、培養酵母の添加や清澄・濾過、補糖といった介入を極力減らし、その土地の微生物と素材そのものに発酵を委ねる低介入醸造の思想だ。介入を減らすほど仕上がりはロットごとにばらつくが、その揺らぎこそが土地と年と微生物の記録になる。本作の設計思想は、この考え方と地続きにある。
033ではステンレスタンクとオーク樽の2種をブレンドしたが、本作は100%オーク樽発酵のみで仕上げた。製造工程を簡略化する狙いもあったが、より大きな理由は、試醸を重ねるうちに「野生酵母は木樽発酵のほうが質的に合うのではないか」という直感を持ったことだ。
木樽がもたらす利点は主に3つある。1つは溶存CO2の低さだ。発酵で酵母が吐き出すCO2は、液面の上の空間(ヘッドスペース)に溜まり、そのガス圧に押されて一部がビールに溶け込む。ステンレスタンクは耐圧が高くガスを密閉して溜め込めるが、木樽は耐圧が低く、樽から少しずつガスが抜けるためガス圧が上がらない。背の高い円錐タンクならさらに液柱の重さが加わるが、木樽は液深も浅い。結果として、木樽の中のビールは溶存CO2が低く保たれる。これがエステルに効いてくる。野生酵母の魅力は発酵由来の豊かなエステル香にあるが、溶存CO2が高いと、酢酸エステルの合成酵素アルコールアセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子ATF1の発現が低下することが知られている。背の高い円錐タンクでバナナ様のエステル、酢酸イソアミルの生成が乏しくなるのはこのためだ。溶存CO2の低い木樽は、酵母が酢酸エステルを存分につくれる器なのである。

2つめはイーストヘルス、つまり酵母の健全性の維持だ。溶存CO2によるストレスが小さいため、酵母は最後まで代謝をやりきることができる。発酵の中間体であるアセトアルデヒド——青リンゴを思わせる刺激臭の原因物質は、糖がエタノールに変わる経路の最終ひとつ手前に現れる物質で、健全な酵母であれば発酵終盤に再び取り込まれ、エタノールまで還元しきられる。逆に、酵母が早く弱って沈み込み、休眠してしまうと、これを残したまま発酵が終わる。穏やかな環境で酵母を最後まで働かせきることは、クリーンで洗練された仕上がりに直結する。

3つめは微量な酸素供給と成分抽出だ。木の継ぎ目や繊維を通じてわずかに酸素が供給され、樽材由来のポリフェノールやオークラクトンが少しずつ抽出される。数ヶ月から数年をかけるバレルエイジとは異なり、本作の樽との接触は発酵期間の10日間ほどにすぎない。それでも、そのわずかな渋みのテクスチャーと木樽香が、ビールに奥行きを与えてくれる。
ただし、木樽は扱いやすい器ではない。繊維が空気を通すということは、酢酸菌や望まぬ野生酵母といった微生物の侵入経路にもなりうるということだ。木材は洗浄・殺菌が難しく、内壁に微生物が住み着けば狙いどおりの発酵にはならない。樽詰めの前後で繰り返しpHと官能を確認しながら進めるのが、木樽発酵の実務である。一度仕込めば樽の個体差や前回の使用履歴がそのまま味に出るため、同じ条件を再現することは難しい。
静岡大学の3株は、いずれも穏やかで優しいキャラクターだった。野生酵母らしいバナナのエステルに加え、洋梨やハチミツ、フローラルなニュアンスが感じられる。過去に扱った株の中には、カカオ豆から単離したBE-2のように個性が強くエグみを伴うものもあったが、今回の3株にはそうした角がなく、非常に扱いやすい印象だった。発酵はゆっくりと進んだが、最終的な発酵度は非常に高く、綺麗に仕上がった。

実は、本作には奈良県産の梅酢も少量加えている。わずかな塩味と、ほんのりとした梅の香りを添えるためだ。梅酢は梅干しを漬ける過程で生まれる液体で、クエン酸を主とする有機酸と塩分を含む。塩化物イオンはビールに角のない柔らかな質感を与えると言われ、わずかな塩味が酵母と樽の繊細な香りを下支えしてくれることを期待した。添加のタイミングは難しい。有機酸と塩分は麦汁のpHを下げ、発酵中の酵母にも影響しうるため、発酵後の調整段階でごく少量ずつ加え、官能で着地点を確かめた。この梅酢にたどり着いたのも、山宮の個人的なつながりという、もうひとつの偶然だった。奈良、三重、愛知を飛び越えて静岡へとつながる——近隣県のあいだに偶然生まれた結びつきが、このビールの輪郭を作っている。
ヘッドプレッシャーがエステル生成を抑えること自体は、長く醸造に使われてきた培養酵母ではよく知られた現象だ。そのCO2への感受性が株ごとに遺伝的に異なることも、近年わかってきている。だが本作で我々が確かめたかったのは、その先にある二つの問いだ。ひとつは、自然から単離されてまだ日の浅い野生酵母——長く実験室で飼い態らされておらず、醸造酵母とは遺伝的な背景が大きく異なる株が、圧力の低い木樽という環境で、どこまで素顔のエステルを見せるのか。低圧環境における野生酵母のエステル生成は、培養酵母ほどには体系的に調べられていない。もうひとつは、酵母の「出自の多様性」だ。033で我々がブレンドした4株は、伊勢の山・果実・カカオ豆と、採取源そのものがばらばらだった。対して本作の3株は、いずれも静岡大学という単一機関のコレクションに由来する。出自の振れ幅が小さい酵母群をブレンドしたとき、調和は得やすくなるのか、それとも表情の幅が痩せるのか——その答えは、まだ我々の手の中にはない。木樽という低圧で穏やかな器が、静岡大学の酵母たちの本来の表情をどこまで引き出したか。このビールは、その問いに小さな手がかりをくれるはずだ。
香りには、バナナや梨を思わせるエステルとほのかなソーヴィニヨン・ブラン様のグレープフルーツ感と、オーク由来の華やかでスパイシーなニュアンスが複雑に絡み合っている。今のクラフトビールのトレンドとは真逆を行く、引き算の作りだ。樽の個体差と野生酵母のふるまいに左右されるため、同じ瓶は二度と作れない、一期一会の味わいに仕上がったのではないかと思う。一期一会という言葉は感傷的ではない。低介入の発酵では、その日の酵母の状態・気温・樽のコンディションといった制御しきれない変数が仕上がりに織り込まれる。だからこそ同じ味は二度と再現できない——それは欠点ではなく、低介入醸造が引き受けることを選んだ性質である。033を飲んだことがある方には、ぜひ酵母株の違いが生むキャラクターの変化を感じていただきたい。

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